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横浜地方裁判所 昭和47年(ヨ)381号 決定 1973年4月10日

債権者

石島豊久

外三名

右債権者ら代理人

宮崎捷寿

債務者

学校法人関東学院

右代表者

加藤亮三

右代理人弁護士

本多彰治郎

外一名

主文

本件申請をいずれも却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

理由

一債権者らはいずれも「債権者らが債務者の学生である地位を仮に定める。」との裁判を求め、債務者は「債権者らの申請を却下する。」との裁判を求めた。

二当裁判所の判断の要旨は次のとおりである。

(一)  入学を許された学生と大学との関係については、学校当局はその施設を管理運営し、教育を実施するため必要があるかぎり、とくに法規上の根拠がない場合でも、一方的に学則を制定し、学生に対し具体的な指示命令を発することができ、学生はその学則および具体的指示命令に拘束されるものと解すべきであり、したがつて学校当局は、学生の犯した学則違反の所為については一定の懲戒処分を行い得るものというべきである。

(二)  当事者間に争いのない事実および本件疎明を綜合すると、次のとおり一応認めることができる。

1  債務者は教育基本法および学校教育法にしたがいキリスト教に基づき教育事業を経営することを目的として設立されている学校法人であつて、教学機関として関東学院大学、同大校院のほか短期大学、高等学校、中学校、小学校および幼稚園等七校を有し、理事会、常務理事会、評議員会等の機関を設けて、その業務執行にあたつている、業務執行の最高決定機関は理事長を代表者とする理事会であり、教学面の最高責任者としては理事会の任命による学院長がその任にあたつていること、債権者石島、同岩山はいずれも昭和四三年四月、債権者三浦は昭和四一年四月、債権者森脇は昭和四二年四月いずれも債務者関東学院大学(以下単に「大学」という。)に入学し、昭和四七年一月当時別紙学部学年表記載のとおり在学していたものであること、ところが昭和四七年一月二七日債務者は、債権者らに対して債権者らが同月二五日午前九時五〇分ころから同日午前一一時ころまで大学七号館ロビー内において、授業中であるにもかかわらず、ハンドマイクを使用して演説等を行つたことが、債務者の定めた「不法行為に対する当面の緊急処置要綱」(以下単に「要綱」という。)に該当するとして、いずれも除籍処分をなす旨の意思表示をしたこと。

2  大学においては昭和四三年五月二四日大学学生寮の一部焼失を契機とし、同年六月一三日債権者三浦を議長とする全学共闘会議(以下単に「全共闘」という。)の結成が現実化し、大学民主化を掲げて大学当局との対立が激化し、当時の東京大学、日本大学等他大学における紛争拡大と呼応し、同月二九日葉山学寮在寮生に対する大学の説明に基因して経済学部長室に乱入、同年七月に入り大学総務課、企画課等をバリケードで封鎖し、同年九月中旬には債務者の中枢部たる一号館を一時封鎖するに至つた。かくて全共闘の学生を主として中心とし、大学当局との討論を要求する運動は執ように繰り返され、昭和四四年一月大学が東大事件に関連して逮捕された在学学生の身上照会に応じたことから、右照会に応じた関係者は謝罪すべき等とする要求が出されると共に同年二月一号館が再度封鎖された。この間債務者における学内期末試験、昭和四四年度入学試験等も妨害を受け、重大な支障を生じ、右一号館の封鎖も同年九月二九日解除されるまで継続した。

右一号館の封鎖解除がなされ、同年一〇月七日授業が再開されたが、この間債権者三浦は全共闘議長、自治会々長として、同石島は全共闘および自治会の幹部として、積極的に闘争に関与していた。

3  前記授業再開までの闘争によつて債務者は建物、備品等の損害は著るしく、三八名の教員と約四〇名の事務職員が退職した。

4  昭和四六年五月一八日学生大会が開催され、白根和夫を会長とする学生自治会が発足したが、債権者森脇を会長とする「全学自治会」と対立し、双方の間で暴力行為が繰り返され、さらに全共闘系の学生は、債務者職員に対しても再三暴力を加えた。同年一一月一八日債権者森脇に対する凶器準備集合罪の容疑により警察の捜索を受けたが、全共闘系学生は大学当局が警察を学内に導入したものとして、バリケードを設置して火を放ち、火炎ビンを投げる等して警察官と対峙し、その影響は大学内のみならず付近の民家垣根、駐車中の自動車等におよび多大の損害を与えたこと、このような過激な暴力を伴う対峙はその後も継続し、結局、昭和四七年一月一九日から二四日まで休講措置がとられたが、その間の同月二二日「要綱」が制定、施行されるに至つたものであること。

5  債権者らは昭和四七年一月二五日午前九時五〇分から大学七号館ロビー内において、ハンドマイクを使用し、授業中であるにも拘らず、スピーカーの音量を大にして、授業料値上げ反対、要綱の白紙撤回要求等の演説を続けていたところ、これを大学職員により通知を受けた学長代行は、午前一〇時五〇分ころ教員数名と現場に赴いたところ、債権者石島はハンドマイクを、同岩山はスピーカーを各持ち、その側に債権者三浦、同森脇がたつて前記趣旨の演説を続けていたため、学長代行は債権者らに対し、債権者らの行為は要綱に違反するので中止するよう要望し、中止しない場合には処分する旨再三申し入れたが債権者らは右申し入れにしたがわず、かえつて債権者らの周囲にいた他学生から小突かれる状況となつたため、学長代行らは債権者らを説得することを断念して同日午前一一時ころ同所を退去したこと。

当日午前一〇時ころから午前一一時ころまでの間、大学では工学部、経済学部、文学部の各学部および短期大学において、およそ三〇の講義が三、四、七号館および短大館においてなされている最中であつて、いずれも債権者らの演説によつて影響を受けたこと。

6  ところで「要綱」は、前叙のような大学における紛争に鑑み、債務者において全学教授会の審議を経て定められたもので、学内から暴力を一掃することを企図しており、昭和四四年一〇月三日以降告示、声明等によつて明らかにされていた非暴力宜言を学内の規律規範として明確にしたものであること。

(三)  以上一応認めることのできる事実のもとにおいては、「要綱」は債務者における一規則と解され、債権者らの昭和四七年一月二五日の行為が「要綱」に該当するとして、債権者らをいずれも除籍処分にした債務者の処分は、右規則に基づく相当な処分と認められる。

(四)  債権者らは、債務者の処分は、憲法一四条、二一条に違反し、あるいは公序良俗に反する不当な処分であると主張するが、本件処分が債権者らの内心的思想信条そのものをとりあげ、処分の対象たる事実としていないこと明らかであつて、また集会、結社の自由も、学内の秩序の維持を現実に害されないこととの調和において、基本的に認め得るものであつて、いずれも理由がなく、また本件処分が公序良俗に反するとも認められない。

(五)  以上のとおり債権者らの本件申請はいずれも理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(坂垣範之)

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